(コラム&エッセイ)忘れられないすすきのの名店・迷店 第1回「詩仙洞の鉄鍋うどん」
「詩仙洞の中が空っぽになってる!」
(やや怒り声で)
との知人からの情報を元に現地へ行ってみると、確かに中が空っぽになっていました。
私と詩仙堂との出会いは、もう8年程前
たまたま、中央区役所での用事をすませ、何か食べたいなぁと裏通りに興味本位で迷い込んだときでした。
その日は、冬で風も強く、のんびりお店を探し歩くほどの余裕もないなぁと思っていたら
眼前に、うどんと書いた濃紺の暖簾がバッサバッサと踊っているのを見つけました。
連れに
「これは、もう見た瞬間に名店だとわかるね!白無垢の外壁に濃紺の大振りの暖簾、きっと若夫婦が切り盛りしている本格派うどんの店だ!」
何を根拠にそこまで細かいディティールの予想を自信満々にぶっ飛ばしたのかは今尚以て不明だが、暖簾の向こう側には、
その予想とは180°違う結果が、待ち受けていたのでした。
暖簾をくぐり、引き戸をガラガラと開け中に入ると……
いきなり農家の土間の様な風景に大テーブル二つ。その向こう側に昔の駄菓子屋のようなコタツのある小上がり。
若い人にはわからないだろうが、昔の駄菓子屋さんは居間とお店が繋がっているお店が多く、店主(大体おばあちゃん)は、必要な時以外は居間のコタツでテレビを見たりしていたのです。
コタツには、工務店の作業服を来たおじさま連中が4名程、しかし店員さんの姿は全く見当たりません。
若夫婦が独立したこぎれいな店内という予想はかすりもしなかったわけだけど、思い切って
私「すいませ〜ん。二名です。」
と何処向くともなく声に出してみます。
すると…
店主「だれ?」
?だれ?ダレ?DARE?
WHO ARE YOU ?
(あなたは誰ですか?)
飲食店に入って初めての衝撃!
これが、詩仙堂に初突撃する全ての特攻兵を撃墜し続けたファーストインパクト=洗礼である。
私「いえ、誰と言うか、初めてなんですけども……(笑いをかみ殺しながら)」
店主「あ、そう!ここ知らない人ほとんど来ないからね。適当にそこに座って。」
土間のテーブル2台のうち、左側には大量のおでんを仕込んでる寸胴や、野菜やなんかが積んであるので、もう一つのテーブルに座りました。
何処を見回してもメニュー表のようなものも見当たらず、キョロキョロと店内を見渡していると、鍋焼きうどんの写真が飾ってあるのに気がつきました。
私「すいません〜。この写真の鍋焼きうどん?二つください。」
店主「今作ってるよ!お兄ちゃんは大きいからうどん二玉でいいよね?」
!
ま!じ!か!……
どうやらこのお店は、鍋焼きうどんオンリーのメニュー構成。
入店すると自動的に鍋焼きうどんが作られるのです。(ボリュームも自動ですがw)
やって来た鍋焼きうどんは、肉や野菜などの具材も盛り沢山で、しかも目の前の玉子は割り放題入れ放題w結構な満腹感です。
ようやく食べ終わって、いい具合になって来たところで
店主「あ、あんたたち、コーヒー飲むでしょ?誰か、コーヒー淹れたげて!」
なんと、店主さんは、小上がりにいたおじさんに、私たちのコーヒーを淹れるよう指示したのです。
常連さんの入れたコーヒーを恐縮しながら飲み干して、さてお会計。
ここで更に驚愕のシステムが!
私「お会計お願いします。」
店主「あ、そこに置いといて、お釣りは入り口のかごにある100円玉から持ってって」
お会計も、自動!
とにかく、とんでもない名店「詩仙洞(しせんどう)」移転や復活の情報を切に望むのでした。